2006年02月24日

短編集B

タイトル『ミー子』

「ニャー!」
夏休み、予定もなく縁側で寝ていたら猫の泣き声が聞こえてきた。
家で猫の泣き声を聞くのは数年ぶりのことだった。というのも最近まで犬を飼っていたので、野良猫は家に寄り付かなかった。
台所から煮干を取ってきて、縁側の前に一本投げてみた。
すると、庭にある植え込みの影から一匹の野良猫がその煮干を食べにきた。
黄色をベースに茶色いラインが体全体に入った猫で、漫画家の小林まことさんが書いていた『What's Michael』に出てくるマイケルにそっくりだった。
次の日、いつものように縁側で寝ていると、また猫の泣き声が聞こえてきた。
体を起こし庭を見ると、昨日の野良猫が縁側の真ん前で、僕に向かって泣いていた。なんかめんどくさいなと思いながらも、昨日と同じように台所に煮干を取りに行った。
煮干の袋を手に取り、縁側に戻ろうとすると、その猫は台所に入ってきた。なんて図々しい猫だと思ったが、僕の手に持っている煮干をあまりにも欲しそうにしているので、仕方なく台所で煮干を数本食べさせた。
その日から毎日、猫は僕に餌をねだりにきた。しかも、僕かダルそうに台所に歩いていくと、猫は僕を急かすように先に台所に走っていくようになった。
そしてしまいには、僕の家に普通に住み始めた。ホント図々しい猫だ。
その猫の寝床は庭にある植え込みの横にある石の影。そして一番のお気に入りの場所は二階にある僕の部屋のベッドの上。
その猫を部屋から追い出すのは学校から帰ってきた僕の日課になった。普通考えればドアをちゃんと閉めていれば猫も入って来れないのだが、どの部屋にも猫が入れるスペースは空けていた。というのも、僕も家族みんなも、猫と一緒のの生活に満足していたからだった。
だが、その猫はやっぱり野良猫。部屋のそこら辺にウンチをした。そこに関しては、家族みんなも怒っていて、仕方なくその猫を招き入れてしまった僕が教育係になった。
その猫の名前は『ミー子』、ウンチやオシッコをする場所は庭の砂利の上、食事は朝の8時と夜の7時の2回、それを定着させる毎日が続いた。
ミー子はなかなか覚えが悪く仕付けをするのに数ヶ月かかった。
やっとミー子も僕が教えた事を覚えてしばらくたった頃、休日で予定がない僕は縁側で寝ていた。
「ニャー」
餌の時間でもないのに猫の泣き声が聞こえてきた。
庭の方を見てみるとミー子が僕の方に向かって泣いていた。ミー子の右前足は下半分がグチャグチャになってて、体の右半分は血だらけだった。
普通なら、すぐにでもミー子の所に行くのだが、なぜかミー子を見たまま、何もできなかった。
ミー子は僕の目をじっと見て「ニャー」と泣き、植え込みの影に入って行った。
すると、急に眠気がさし、眠ってしまった。
それからどれ位たったのかわからないのだが、何か慌てている母の声が聞こえてきた。
寝ていた僕の体を起こし、母はミー子の居場所を僕に聞いてきた。さっきのミー子の姿を見たのは夢だと思い、特にその事は言わなかった。
母が慌てている原因は田んぼの稲刈りで使うコンバイン機の刃に、ミー子らしき猫の毛と血がベッタリついていたという事だった。
僕は慌てて植え込みの影の方に向かった。だけど、そこにはミー子はいなかった。
それから、数日間ミー子を探したけど、ミー子の姿を見る事はなかった。
「猫は死ぬ時、飼い主に見つからない所へ行く。」と、昔お婆ちゃんに聞いた気がする。
あの傷だらけのミー子は夢ではなく、最後に僕にお別れの言葉を言ったのだろうか、僕に夢の中でお別れを言ったのだろうか、僕は今でもそれを疑問に思っています。

−完−
posted by 竹村文彦 at 01:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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